大学卒業によせて〜心地よさを拡張する〜
昨日、私は、5年間を過ごした津田塾大学総合政策学部を卒業しました。

ほぼ初めての小平キャンパスにて
0. 無数の結び目
学生生活5年間のあゆみを振り返りながら、明日からの道のりを背伸びして眺めている時に、ふと気がついたことがあります。それは、私の今までとこれからは「心地よさ」という共通点で結ばれ、繋がっているということです。
5年間、たくさんの人に支えられながら、無数の結び目を無我夢中で結んできました。そして、その結び目が繋がり、この1年間で、3つの大きな結び目として実を結びました。

袴の結び目
まず1つ目に、大学2年生の時に生み出した"おかえり"ショーツの販売事業を事業譲渡したこと。2つ目に、4月からは東京大学大学院に進学し、フェムテックの研究を続けること。そして3つ目に、人生のパートナーと共にあゆむ覚悟を決め、事実婚という形で結婚したことです。これまでの、結び目が1つでもほころんでいたら、きっと3つの結び目が編まれることはなかったんじゃないかと思います。
そしてそのどれもが、「心地よさ」という1つのテーマを鍵に、繋がっています。
少し長くなりますが、今日は、「心地よさ」という共通点に触れながら、今年1年で紡いだ結び目を中心に、大学5年間のあゆみについてお話しさせてください。
目次
0. 無数の結び目
1. 「心地よさ」を創り、広げる 〜事業譲渡に至るまでのモヤモヤ〜
2. 誰もが「心地よい」に手が届く世界へ 〜未知の景色を探す、これから〜
3. 私の心地よさを紡ぐ 〜たったひとつの”ふうふ”の形を〜
4. 結びに
1. 「心地よさ」を創り、広げる 〜事業譲渡に至るまでのモヤモヤ〜
2024年、3月8日、国際女性デーに、私は大切に育ててきた"おかえり"ショーツの販売事業を、事業譲渡したことを公表しました。法人化して販売してから、ちょうど3年目の節目の日でした。

PR TIMESのプレスリリースより
正直、事業売却するということをすぐには決められませんでした。実は、1年間、迷いに迷った上で出した決断です。
2年ほど前の2022年、"おかえり"ショーツは着々と売り上げを伸ばし、メディアでも「フェムテック」として脚光を浴びていました。「これから商品の改善をしたり、新作を出したりしたい!」と意気込んでいた矢先、私を待ち受けていたのは「健康」という壁です。生まれつきの膝の悪さから手術を余儀なくされ、追い討ちをかけるように重い感染症にかかり、「1年くらいは体力が戻らない」と医師に告げられました。もはや、健康と学業と経営を一緒にできる状態ではなく、その時ある在庫限りで"おかえり"ショーツの販売を休止することになりました。
その時は、本当に本当に悔しかったのを覚えています。
休止して、事業から離れてみると、少し冷静に事業や自分の想いについて考える機会が増えました。"おかえり"ショーツを販売していた時に感じたことを振り返っている中で気がついたことがあります。私は、心のすみっこでモヤモヤを抱えながら事業をやっていたのです。

初めてのPOPUP
「"おかえり"ショーツを販売することは、本当に女性たちの幸せに繋がっているのだろうか?」
という本当に根本的な問いを常に抱えていたのです。
そしてこの問いは、"おかえり"ショーツを買ってくださった方とお話しする中で、何度も突きつけられてきました。半身麻痺の方から「車椅子ユーザーは、あなたの商品を必要としているよ!」とご連絡をいただいた時、"おかえり"ショーツを開発するときに身体に不自由がある女性を想定していなかったことに気がつきました。FTMでホルモン注射をされている方から、「ホルモン注射して身体が変わっていく時、こういう商品が欲しかったんだよ!」といわれた時、セクシュアリティのことを十分に考えていなかったことに、後悔しました。
「高くてなかなか買えない」といわれた時、ウェルビーイングや選択肢が広げられるのは、お金がある人だけでいいのか、悩みました。商品を販売するために「女性らしさから自分を解放しよう」と書く時、フェミニズムの文脈を消費していないか葛藤しました。「ご自愛しよう」と伝えるとき、女性が自分のことまでケアしなきゃいけない不均衡から目を背けているような、そんな気がしました。
「女性たちのため」と言いながら、実は誰かの「心地よさ」を無視しているかもしれない。事業をやりながらも、本当はもっと本質的に変えなきゃいけないことがあるんじゃないか。
“おかえり”ショーツをお届けすればするほど、モヤモヤするようになったのです。

徐々にたくさんの人に届き始めて、嬉しかった日
"おかえり"ショーツは、これまでのショーツの形に心地悪さを感じていた人たちへ、新たな「心地よい」選択肢を提供することに成功しました。そしてその選択肢は、これからもこの世に残り続けて欲しい。ありがたいことに、販売停止後も「再販はまだですか?」「もう一度売ってはくれませんか」といったお問い合わせをいくつもいただき、必要とされているということも実感できました。
でも、私自身は、
"おかえり"ショーツという事業に真剣に向き合ったからこそ、もっと包括的に多様な人たちの心地よさに向き合い、社会の構造的な変化を生み出してきたい
と考えるようになりました。
この葛藤を解決可能な選択肢として、「事業譲渡」が挙がったのです。実際「事業譲渡」に向けて動いてみると、1年も停止している事業だったので、周囲に相談しても「会社、精算した方がいいんじゃない?」という回答がほとんどでした。でも、このまま事業を潰してしまえば、”おかえり”ショーツが生み出した新たな「心地よさ」は、消えてしまいます。
“おかえり”ショーツが届けてきた「心地よさ」を、残したい。
必要としてくださっているお客様の声に応えたい。
という気持ちから、先日のリリースまで走り切ることができました。
最初のクラウドファンディングから最後の事業譲渡まで、私の想いを信じて応援してくださるお客様の声に何度も救っていただきました。これからの”おかえり”ショーツの未来も見守っていただけたら嬉しいです。今回、「事業譲渡」という形で、"おかえり"ショーツをこの世界に残すことができたことで、私自身も心地よく未来向かってに進むことができそうです。
2. 誰もが「心地よい」に手が届く世界へ 〜未知の景色を探す、これから〜
これからは、真に「女性のため」の技術とは何か、という新たな問いに挑んでいきたいと考えています。
その問いを探究するため、4月からは東京大学大学院学際情報学府で、女性の身体を扱う技術であるフェムテックについて批判的研究を続けます。一見、自分が取り組んできたことを自分で否定するように見受けられるかもしれませんが、私自身はそうは捉えていません。
フェムテックについて批判的に考察することで、どうしたら健やかにフェムテックという市場を発展させられるのか、考えることができると思っています。
津田塾大学の卒業論文でも、そのような問題意識で取り組み、赤松良子賞(最も優秀な卒業論文に送られる賞)を受賞することができました。卒論の一部を学会で発表した際にも賞をいただき、自分自身の問いを深めていくにあたって良いスタートを切ることができました。修士でも探究を続けていきたいと思っています。

赤松良子賞受賞式のあと、小平キャンパスにて
研究を頑張っていくのはもちろんのこと、株式会社Essayとして会社の経営も続けていきます(事業譲渡なので会社自体は引き続き経営しています)。研究で立証したことや考えたことを、社会実装するところまでやりたいと考えているからです。

研究と経営、越境して融合させていきたい
長期戦になる予感ですが、誰もが「心地よい」に手が届く世界を創るため、研究と経営を橋渡しできるように手を動かし続けたいと思います。
3. 私の心地よさを紡ぐ 〜ただひとつの“ふうふ”の形を〜
そして最後に、(これが一番びっくりされるかもしれませんが笑) 、結婚しました!

渋谷QWSにてパートナーと
パートナーとは渋谷QWSというインキュベーション施設で出会いました。時間を重ねるごとに、彼と一緒に、ふたりの「心地よさ」を紡いでいきたいという思いが増し、人生のパートナーとしてあゆむことを決意しました。
私たちは、入籍という形ではなく、事実婚という形でパートナーシップの礎を築くことにしました。
理由は凄くシンプルなのですが、自分の苗字が好きで変えたくないからです。そして、私もパートナーも苗字を変えずに、それぞれが生まれてきてから大事にしてきた名前をそのまま使っていくことに決めました。
夫婦別姓が叶わない今、私たちがふたりの「心地よさ」を大切にしながら、ふうふとして生きていくには、「事実婚」という選択肢しか残されていなかったというのが正直なところです。
事実婚はほとんど法律婚とは変わりませんが、税制優遇がなかったり親権が片方しか持てなかったりと、大きな差異もあります。そしてお互いに看病したり、相続したりといった権利を守り、証明するためには公正証書という形で契約を結ぶ必要もあります。

公正証書で契約を結んだ日 B/43のセーブポイントというイベントで、公正証書の写を持ちながら
事実婚という形を選び取ったひとりの当事者として、自分が生まれてから大切にしてきた姓を名乗り続けるという「心地よさ」を、不安なく選べる社会を求めていきたいと思っています。
4. 結びに
事業譲渡、大学院進学、そして結婚。
5年間の大学生活は、3つの大きな結び目を紡いでくれました。振り返ってみれば、5年間で生まれた結び目は、「心地よさを拡張する」という大きなテーマで繋がっていたように思います。

津田塾での5年間に想いを馳せて
事業譲渡までの道のりでは、「心地よさ」を創ることで、
大学院への進学を決めるまでの葛藤は、「心地よい」を誰もが選べる世界への探究で、
そして、パートナーシップを築くことは、「心地よさ」の範囲を、わたしから私たちにアップデートすることで、「心地よさの拡張」という願いを叶えるため、結び目を繋いできました。
4月からは新しい結び目を求めて一歩を踏み出します。大学生活を通して生まれた「心地よさの拡張」という人生をかけて取り組みたい大きなテーマを胸に、これからも真摯に前に進んでいきたいと思います。
2024.3.16 江連千佳より
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